第 29 回 日本統計学会賞 |
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瀬尾 隆 氏 |
第 4 回 日本統計学会中村隆英賞 |
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清家 篤 氏 |
第 20 回 日本統計学会統計活動賞 |
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該当なし |
第 20 回 日本統計学会統計教育賞 |
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稲垣 道子 氏、株式会社インテージホールディングス(代表:増田純也・小林春佳氏) |
第 18 回 日本統計学会研究業績賞 |
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間野 修平 氏 |
第 17 回 日本統計学会出版賞 |
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該当なし |
第 38 回 日本統計学会小川研究奨励賞 |
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栗栖 大輔 氏、奥野 彰文 氏、上原 悠槙 氏 |
1989年 東京理科大学理学部応用数学科卒業、1994年 広島大学理学研究科数学専攻博士課程修了、博士(理学)取得、1994年 東京理科大学理工学部助手、1999年 東京理科大学理学部講師、2004年 東京理科大学理学部助教授、2010年 東京理科大学理学部教授、現在に至る。
瀬尾隆氏は、多変量解析の統計理論の分野で顕著な業績を挙げている。とくに多変量一般化Turkey予想の証明(3群の場合)、ある種の欠測値を持つデータセットに対する平均ベクトルに関する仮説検定方式や同時信頼領域の構成、正規母集団での成果を楕円母集団に拡張、線形および2次判別関数に関する高精度な大標本高次元近似法の開発、などが挙げられる.また、同氏は研究活動を通して大学教育や若手研究者養成にも尽力し、15名の博士および54名の修士を輩出している。とりわけ博士15名中6名が女性であり、女性研究者の養成にも貢献している。学会では運営業務の要職を多年にわたり歴任し、学会活動に多大な貢献をしている。また瀬尾氏は、統計検定について創設直後から企画および実施運営に継続的に携わり、現在に至る統計検定の発展に寄与し、統計学の社会への普及へ尽力している。最近では、東京理科大学における統計科学研究部門長として統計科学・データサイエンス研究拠点を先導し、統計研究者の研究活動を牽引している。瀬尾氏のこのような統計学の発展および普及に対する多大な貢献は、日本統計学会賞に相応しいものである。
[1] Seo, T., Mano, S. and Fujikoshi, Y. (1994). A generalized Tukey conjecture for multiple comparisons among mean vectors, Journal of the American Statistical Association, 89, 676-679.
[2] Seo, T., Srivastava, M. S. (2000). Testing equality of means and simultaneous confidence intervals in repeated measures with missing data, Biometrical Journal, 42, 981-993.
[3] Seo, T., Kanda, T. and Fujikoshi, Y. (1995). The effects of nonnormality on tests for dimensionality in canonical correlation and MANOVA models, Journal of Multivariate Analysis, 52, 325-337.
1978年慶應義塾大学経済学部卒、同大学商学部助手、助教授を経て、教授。2009年から2017年まで慶應義塾長(慶應義塾理事長、慶應義塾大学学長)。ハーバード大学客員教授、ILO仕事の未来世界委員会委員、社会保障制度改革国民会議会長、全国社会福祉協議会会長などを務める。現在、労働政策審議会会長、全世代型社会保障構築会議座長。2016年フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。
清家篤氏は、高齢者の雇用、就業に関し、豊富な統計資料を用いて幅広い数多くの実証分析を行ってきた。この分野の実証分析の嚆矢として、政府ミクロ統計「全国消費実態調査」、「高年齢者就業等実態調査」を用い、高齢者の労働供給関数を推計した。とくに厚生年金制度における在職老齢年金制度が所得制約線の屈折によって労働供給に与える点を理論分析し、これをノンパラメトリック分析によって検証したことは独創的研究である。またヘックマンの二段階推計法を用いて高齢者の労働供給分析を行い、年金給付額を説明変数とする労働供給関数では、推計される年金給付の係数に同時決定バイアスが発生することを見出した。これらの成果は『高齢者の労働経済学』(1992年、日本経済新聞社)、『高齢化社会の労働市場』(1993年、東洋経済新報社)、『高齢者就業の経済学』(山田篤裕氏と共著、2004年、日本経済新聞社)として出版され、高い学術的な評価を受けている。さらに一般書においても「生涯現役社会」「雇用再生」など説得力ある議論を展開し、統計を使った実証分析の意義について国民や学生の理解を高めた。清家氏のこれらの業績は、日本統計学会中村賞に相応しいものである。
[1]『高齢者の労働経済学』(1992年、1993年の沖永賞)日本経済新聞社
[2]『高齢化社会の労働市場』東洋経済新報社(1993年、1994年の第17回労働関係 図書優秀賞、1994年の「東京海上各務記念財団優秀図書賞」受賞)
[3]『生涯現役社会の条件』中公新書(1998年)
[4]『高齢者就業の経済学』(山田篤裕氏と共著)日本経済新聞社(2004年、2005年の第48回日経・経済図書文化賞受賞)
[5]『雇用再生』NHKブックス(2013年)
[6]『労働経済』(風神佐知子氏と共著)東洋経済新報社(2020年)
2007年 東京女子大学文理学部卒業、2007年 山田町立山田中学校、2010 年 宮古市立河南中学校、 2013年 盛岡市立厨川中学校、 2019年 岩手大学教育学部附属中学校に勤務 現在に至る。
稲垣道子氏は中学校数学における統計教育において岩手大学と連携し、小中高の系統性を大切にした授業実践や教材開発を行っている。また、OECDラーニングコンパス(数学)に示されている統計と実社会とのつながりについて、生徒が社会と数学とのつながりを実感できるような授業実践を行っている。実践については、全国算数・数学教育研究大会、統計・データサイエンス教育の方法論ワークショップ、広島県令和4年度専門講座で発表を行ない、自らの力を高めようとするとともに、情報の発信に尽力している。生徒の統計的課題解決の指導にも積極的に携わり、授業で学んだことを発揮する場として統計グラフコンクールを位置付けている。以上から、稲垣道子氏は、日本統計学会統計教育賞に相応しい。
インテージホールディングス社は、購買データなど一般に高額なため教育や研究での利用が困難なデータを、教育利用目的として無償で多くの大学へ提供してきた。そのため、多くの大学や研究機関において、企業活動データの授業での活用や論文作成を可能としてきた。またデータを用いた現場のビジネス経験に基づき、教員だけでは指導が難しいPBL授業などに対して積極的に社員派遣を行い、講義支援も実施している。また、初等中等教育・高等教育において活用できるカードゲーム教材の開発などを通して、データ活用の啓発活動も行っている。データサイエンス教育において産学連携は重要な課題であり、その提携先を探すに際し多くの大学は困難を抱えている中で、インテージグループの教育支援の精力的な取組みは、産学連携でも高く評価できる。以上の活動から、インテージホールディングス社の活動は、日本統計学会統計教育賞に相応しい。
[1] S. Mano. Partition structure and the A-hypergeometric distribution associated with the rational normal curve. Electronic Journal of Statistics, 11, 4452-4487, 2017.
[2] S. Mano. Extreme sizes in Gibbs-type exchangeable random partitions. Annals of the Institute of Statistical Mathematics, 69, 1-37, 2017.
[3] S. Mano. Partitions, Hypergeometric Systems, and Dirichlet Process in Statistics. Springer, 2018 (ISBN: 9784431558880).
[4] S. Mano. A measure-on-graph-valued diffusion: A particle system with collisions and its applications. Mathematics, Special Issue Random Combinatorial Structures, 10 (21) 4081, 2022.
[1] Kurisu, D. (2022), Nonparametric regression for locally stationary random fields under stochastic sampling design. Bernoulli. 28, 1250-1275.
[2] Kurisu, D. and Matsuda, Y. (2024) Local polynomial trend regression for spatial data on Rd. Bernoulli, in press.
[3] Kurisu, D., Kato, K. and Shao, X. (2024), Gaussian approximation and spatially dependent wild bootstrap for high-dimensional spatial data. Journal of the American Statistical Association (Theory and Methods), in press.
栗栖大輔氏は、空間データに関する研究成果を数理統計・確率論分野において国際的に評価の高い学術誌に発表している。論文[1],[2]では既存研究の枠組みをd次元ユークリッド空間(Rd)上で定義される局所定常空間データに拡張し、Rd上の空間データを離散観測する状況への応用研究として初めてノンパラメトリック回帰の厳密な理論解析を行なった。具体的には、論文[1]ではRd上の局所定常レヴィ駆動型移動平均確率場を提案して非定常・非ガウス確率場に対して回帰分析の理論が構成できることを示し、論文[2]では回帰関数を局所多項式回帰で推定する場合の推定量の漸近分散の推定法を提案するとともに空間データに対する回帰不連続デザイン等因果推論への応用の可能性も示した。さらに論文[3]では、Rd上の多変量空間データの平均ベクトルの信頼区間を構成する方法として、平均ベクトルが高次元の場合でも既存の方法より安定した結果が得られるブートストラップ法を提案し、その理論的妥当性を示した貢献は大きい。以上により、栗栖氏の研究は小川研究奨励賞の受賞に相応しいものである。
2014年 大阪大学基礎工学部 卒業
2019年 京都大学大学院情報学研究科博士後期課程 研究指導認定退学
2020年 同 博士号取得
(職歴)
2017年 日本学術振興会特別研究員 (DC2)
2020年 統計数理研究所 助教
現在に至る。
[1] Akifumi Okuno and Keisuke Yano (2023), A generalization gap estimation for overparameterized models via the Langevin functional variance, Journal of Computational and Graphical Statistics, 32(4):1287-1295.
[2] Akifumi Okuno and Kazuharu Harada (2024), An interpretable neural network-based non-proportional odds model for ordinal regression, Journal of Computational and Graphical Statistics, in press.
[3] Akifumi Okuno and Masaaki Imaizumi (2024), Minimax Analysis for Inverse Risk in Nonparametric Planer Invertible Regression, Electronic Journal of Statistics, 18(1):355-394, 2024.
奥野彰文氏はニューラルネットワークなど表現能力の高い予測モデルを用いた統計的推定手法の開発と理論研究に携わってきた。その応用として天文学など諸科学分野との共同研究にも積極的に取り組んでいる。特に論文[1]では特異モデルを評価できる既存の情報量規準WAIC(Watanabe, JMLR2010)がニューラルネッワークなどの過剰パラメータモデルにも適用可能かを検討し、その効率的な計算法を示している。論文[2]ではニューラルネットワークを用いた非比例順序回帰モデルが単調性を満たすためのドメイン制約表現能力のトレードオフを示し、実データでも柔軟で妥当な解釈結果が得られている。論文[3]では近年注目されているニューラル生成モデル等の評価を目標とし、可逆関数推定のミニマックスレートを理論的に導出している。これらの論文で提示された手法はいずれも実装が容易かつ効率的な計算が可能であり応用を見据えながら理論的な整合性も示されている点が高く評価できる。これら先駆的な成果は伝統的統計手法に新たな視点をもたらしており、日本統計学会小川研究奨励賞に相応しい。
2016年 九州大学数理学府 数理学専攻博士前期課程修了
2018年度採用分 日本学術振興会特別研究員 DC2(下記就職のため辞退)
2018年 統計数理研究所リスク解析戦略研究センター 特任研究員
2019年より同助教
2019年3月 博士号取得(数理学、九州大学数理学府)
2020年 関西大学システム理工学部数学科助教
2023年より同准教授
現在に至る。
[1] Masuda, H., Mercuri, L. and Uehara, Y. (2022). Noise inference for ergodic Lévy driven SDE. Electronic Journal of Statistics, 16, 2432-2474.
[2] Uehara, Y. (2023). Bootstrap method for misspecified ergodic Lévy driven stochastic differential equation models. Annals of the Institute of Statistical Mathematics, 73, 535-565.
[3] Ogihara, T. and Uehara, Y. (2023). Local asymptotic mixed normality via transition density approximation and an application to ergodic jump-diffusion processes, Bernoulli, 29, 2342-2366.
上原悠槙氏はこれまで、高頻度観測に基づく非正規確率微分方程式モデルの統計理論構築とそれらの計算機への実装に取り組んできた。論文[1]では、レヴィ過程で駆動される確率過程の非正規性を解析するための統計手法の開発およびそのソフトウェア実装を行い、従来の平均・分散構造の範疇を超えた分析の道を拓いた。論文[2]では、モデルのドリフト・スケール係数が誤特定されている設定の下、ブートストラップ法に基づく正規型擬似最尤推定量の漸近分布の近似手法およびその理論的性質を導出した。得られた結果は拡散過程モデルの場合においても新しく、係数の誤特定によらず統一的に漸近分布の近似を可能とする顕著なものである。論文[3]では、ジャンプ付き拡散過程の高頻度観測に基づく局所漸近正規性が示され、20年来の懸案であった閾値に基づく擬似最尤推定量の漸近有効性が保証された。以上のとおり、上原氏の業績は、従属性データの統計モデルの推測に新たな方向性を与えた革新的なものであり、日本統計学会小川研究奨励賞に相応しい。