2021年 7月4日
樋口 知之(中央大学)
この度、学会の所定の手続きを経て、2021年6月の理事会において日本統計学会会長に選出されました。長い歴史をもつ伝統ある本学会の会長に選ばれ、責任の重大さを思うと身の引き締まる思いです。本学会では、統計学の発展・普及のために様々な活動が行われてきました。例えば、本学会は、統計関連学会連合への参加および Japanese Journal of Statistics and Data Scienceの刊行を通じて、他の関連学会と協働しています。また、統計教育の面では、大きな成功をあげています統計検定の実施への協力、統計教育委員会による統計教育の発展・普及の活動などが行われています。大森裕浩理事長を始め、理事、監事、委員会等の皆様のご協力をいただきながら、微力ではありますが、本学会及び統計学の発展のために力を尽くしてまいる所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
2012年、物体画像認識の精度を競う国際コンテストで、他のチームがエラー率26%前後のところ、トロント大学チームが深層学習によりエラー率17%弱とダントツの認識率を示しました。また、オバマ政権がビッグデータ研究開発のための戦略プラン(通称、ビッグデータイニシアティブ)を発表したのも2012年になります。よって2012年は、第三次AIブームの起点と言えるでしょう。2012年当時から、ビッグデータ時代の到来が統計周辺の科学に大きなチャンスをもたらすことを確信していた私は、統計数理研究所の所長としての役回りも意識しつつ、各種メディアからの取材に積極的に対応し多くのメッセージを発信しました。軌を一にする先生方とともに日本学術会議や情報・システム研究機構から、データサイエンティストの育成を加速する具体的な施策を提案いたしました。その後それらの提言は、6大学コンソーシアムを含めた文部科学省による複数の国プロの実現につながっていきました。
現在、国公私立を問わず、数多くの大学でデータサイエンスを専門とする学部などが設置され、その勢いは今も全く衰えることはありません。高校においてもAIやデータサイエンスの教育が本格化し始めています。企業からのAIやデータサイエンスに関わる人材へのニーズは膨れ上がる一方です。統計学はAIやデータサイエンスの基盤であることは誰もが認めるところであり、その点からすると統計学にはこれまでにない追い風が吹いています。しかしながら、学会活動の観点からすると、その追い風をうまく受け止めていないのではないかと私は憂慮しています。事実、会員数はこの10年間ほとんど変わらず、むしろ微減しています。周辺学会と比べると若手の割合も少ない気もしています。
本学会に限らず学会をとりまく環境は複雑化しており、その将来はかなり不透明です。コロナ禍により、昨年度と本年度、二年続けて統計関連学会連合大会が完全オンライン開催となりました。最先端の知識は、分かりやすく解説した情報が無料ですぐに得られる時代に、学会という社会組織に帰属するメリットは自明でなくなりつつあります。学会の重要な機能として、人的ネットワーキングがあります。会員と会員が実際に出会う場があれば、自然と多面的な交流が予期せぬ形で生まれます。一方、オンラインによる講演会、研究会、ワークショップなどの開催は、地理的距離や専門領域を超えて、これまでにない多くの方々へ統計学に関する情報を直接届けることができるようになってきました。私が会長を務める二年間では、将来の学会のあり方を考えつつ、「withコロナ」時代の学会活動を会員の皆様方と構築していきたいと思っています。今後も、皆さまとともに力を尽くしたいと考えております。どうぞご支援ご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2021年6月28日
大森 裕浩(東京大学大学院経済学研究科)
このたび思いがけず、理事長を拝命いたしました。日本統計学会の運営を担う重要な仕事をお任せいただきましたことは大変身に余る光栄であり、感謝を申し上げます。歴代理事長は大変著名で優秀な先生方であることを改めて知り、身の引き締まる思いでおります。中でも初代理事長の鈴木雪夫先生は、私が東京大学経済学部に在学時のゼミの指導教授であり、私が研究者を志す契機を与えてくださった先生です。鈴木先生を含め、理事長として先生方の名を汚さぬよう日本統計学会に貢献をしていきたいと思っております。
これまで日本統計学会においては様々な形で深く活動をさせていただいてきました。理事会では日本統計学会誌の編集委員(英文誌・和文誌)や編集委員長(和文誌)を務めたほか、国際関係理事として日本・台湾・韓国の統計関連学会の交流を担当してきました。また日本統計学会の代議員を2011年より務めており、2016年には活動組織特別委員会委員長として、他学会との連携や産業界との連携、国際化の試み、若手研究者・女性研究者の支援などに関する提言を行いました。関連して統計学に関わる国内外の会議開催を行っており、2012年には、日本統計学会の協賛を頂いて国際ベイズ分析学会(International Society of Bayesian Analysis, ISBA)世界大会を京都で事務局長として開催し(組織委員会委員長は和合肇先生)、2014年には日本統計学会を含む統計関連学会連合大会(東京大学本郷キャンパス)を実行委員長として開催してきました。さらに2012年には渡部敏明氏と研究業績賞を共同受賞、2018年には日本統計学会賞を受賞させていただいており、日本統計学会は常に研究活動の基盤でありました。今回は理事長となり、日本統計学会に貢献できることを大変うれしく思っております。
現在、日本統計学会誌の英文誌はその発行主体が日本統計学会から統計関連学会連合に移り、JJSD(Japanese Journal of Statistics and Data Science)に発展・統合され、Editor-in-Chiefの青嶋誠先生の強いリーダーシップのもと国際学術雑誌としてその地位を確立しつつあります。日本統計学会はその発行を現在もサポートしており、理事会においてはそれを継続して行くことができるよう支援体制を整えていきます。現在は科研費による予算の支援が行われていますが、引き続き財政的な支援を継続できるよう努めてまいります。和文誌は日本統計学会独自の唯一の学術雑誌となりましたが、その重要性は以前よりも増していると考えています。日本語で掲載できる質の高い学術雑誌は多いとは言えず、新編集委員長の栁原宏和先生のご指導のもと、統計学の分野における貴重な研究発表の場としての受け皿を今後も維持していきたく存じております。会員の皆様には奮って投稿や特集企画の応募をお願いいたします。
国際関係では、コロナ禍ということもあり国際会議への派遣や、日本で行われる会議への招待が難しい状況下にあります。これまで上述の三学会の交流や国際ベイズ分析学会世界大会のほか、 日本からも参加者の多いCFE (Computational Finance and Econometrics)やEcoSta (Econometrics and Statistics) のCo-chairを務め、日本統計学会の名前の付いたセッションを企画したり、 2019年ISBA Eastern Asia Chapterの東アジア大会を会長として神戸大学にて開催(実行委員長は各務和彦先生)したりしてまいりましたが、これらの経験を通じて国際交流の重要性を強く感じてきました。経験豊富な国際関係理事のもと、コロナ禍終息後には、国際交流にも一層力を入れていきたいと考えています。その他にも統計検定、統計教育、日本統計学会の直面する財源の問題や、寄附金、組織効率化などの問題についても取り組む所存です。
日本統計学会独自の日本統計学会春季集会は、2021年度は慶應義塾大学日吉キャンパス(実行委員長は中妻照雄先生)、2022年度は東京都立大学南大沢キャンパス(実行委員長は中山厚穂先生)にて開催を予定しております。コロナ禍終息後の学会としてより多くの皆様のご参加をお待ちしております。
これまでの山下智志前理事長及び前理事会理事の先生方の素晴らしい理事会活動を継続し、これより2年間、会長の樋口知之先生、そして厚く信頼のおける心強い新理事(今回、新しく教育担当理事も加わっていただきました)の先生方と共に、ご一緒に日本統計学会が一段と活気をもって活動できるように運営をして参る所存ですので、よろしくお願い申し上げます。