2019年 6月21日
川崎 茂(日本大学)
この度,学会の所定の手続きを経て,2019年6月の理事会において日本統計学会会長に選出されました。長い歴史をもつ本学会の会長に選ばれ,大変光栄に存じます。山下智志理事長を始め,理事,監事,委員会等の皆様のご協力をいただきながら,微力ではありますが,本学会及び統計学の発展のために力を尽くしてまいる所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
近年,統計学に対する社会の期待が高まっています。2009年にGoogleのチーフエコノミスト,Hal Varianが「今後10年間で最も魅力的な職業は統計家となるだろう。」と述べてから,すでに10年が経過しました。最近では,「データは21世紀の石油」と言われており,データからの価値創造が従来以上に求められています。また,Evidence Based Medicine,Evidence Based Policy Makingなど事実に基づく意思決定が提唱されており,データの活用はあらゆる分野で重要な課題となっていいます。
他方,統計に関する社会的な疑義や論争も時折発生します。本年1月には,厚生労働省の毎月勤労統計調査の不正問題が発生し,正確で当然と思われていた国の統計に対する国民の信頼は,大きく揺るがされることとなりました。また,5月には,金融庁の審議会の報告書に,老後の金融資産として2000万円が必要となるとした試算が掲載され,その解釈をめぐって大きな政治的論議が起こりました。
このように,統計学と統計は,社会の様々な分野で活用されるとともに,頻繁に市民生活の話題にも上るものとなっています。私は,これまでの職業人生において,国の統計機関で統計の作成・分析等に携わり,日頃から,社会と統計の関係の在り方に意を配ってきました。本学会の活動においては,このような経験を少しでも活かせればと考えています。
本学会では,歴代の会長,理事長,役員等の皆様のご尽力により,統計学の発展・普及のために様々な活動が行われてきました。例えば,本学会は,統計関連学会連合への参加を通じて他の関連学会と協働しているほか,欧文ジャーナルについても協働が進められ,従前の欧文ジャーナルを発展的に継承したJapanese Journal of Statistics and Data Scienceが昨年から刊行されています。また,統計教育の面では,2011年から開始された統計検定の実施への協力,統計教育委員会による統計教育の発展・普及の活動などが行われています。これらの様々な取組は,統計学の一層の発展・普及に寄与するものであり,今後とも,学会として,このような活動を支援し,さらに発展させることが必要であろうと考えています。
今日の統計学への関心と期待の高まりが単なるブームとして終わることのないよう,また,統計学が真に社会に役立つものとなるよう,今後も,皆さまとともに力を尽くしたいと考えております。どうぞご支援ご協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。
2019年6月26日
山下 智志(統計数理研究所)
このたび理事長を拝命いたしました。学会HPに歴代の理事長リストがあるのですが、改めて確認してみると錚々たるメンバーで、尊敬に値する方々です。身に余る光栄と感じているのですが、一方私で任に堪えうるか、不安でいっぱいです。これまで庶務理事、会計担当の理事を4期担当させていただき、学会運営の補助的な役割は経験しておりますが、これからは理事長として運営のとりまとめを務めなくてはなりません。幸い、長期にわたり統計学界のリーダーとしてご活躍いただいている川崎先生を会長に迎え、さらにこれまで献身的に学会活動にご尽力いただいておりました経験豊富な先生方に理事をお引き受けいただき、たいへん心強く感じています。
現在、ビッグデータ、データサイエンス、人工知能、機械学習など統計に関する追い風がある一方、政府統計のような微妙な問題があり、統計学と社会の接点が再構成されつつあります。また、学会誌がネット上で自由に閲覧でき、学者研究者が個々につながることができるようになり、あらためて学会の存在価値が問われる状況と感じております。
具体的に以下の点について、自身の課題と感じています。
第1は、会員にとっての学会の存在価値の向上です。これまで学会の価値の中心に学会誌と大会の開催がありました。ところが、統計学会では欧文誌の発行については統計関連学会連合に発行母体を移管し、学会共有の雑誌として再出発しております。また、大会につきましては秋の全国大会は学会連合主催の行事となっております。そのため、統計学会独自の活動としては和文誌の発行と、春大会の開催が中心となっています。このような現状において、若手研究者にとって入会を欲するほどの魅力を維持するためには、より斬新で密度の濃い交流の機会を提供する必要性を感じています。
第2は、データサイエンスや機械学習などの近年のムーブメントへの対応です。社会のデータやその分析についての関心が強くなってきており、さらに日本の国際競争力維持のためにも早急に対応が求められています。機械学習・人工知能については時には統計学と対比的に紹介されることもありますが、統計学を一方の基礎として成立している技術です。そのため、この分野への積極的な関与が学会に求められており、要請に応える必要性を感じています。
第3は、統計技術者の人材育成に関する学会の関与です。第2のムーブメントメントから日本においてデータ分析を行える人材が不足しており、それが産業の発展の障害になっています。この問題を解決する役割の一端を学会が担う必要を感じます。共通教材の開発や、質保証、教育技術の開発などをテーマに、共同事業を進めて行きたいと思います。
以上、これから解決すべき課題のように書きましたが、実際はすでに会員の先生方がすでに取り組んでいらっしゃる課題です。私としてはそのような有意義な活動を、組織運営を通じてサポートできるよう任務に注力します。
2年間の任期となりますが、粉骨砕身・惜しみなく努めて行きますので、どうかご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。